ウシクルナ!
    作・絵 陣 崎 草 子 Soko Jinsaki           ☆雑誌「飛ぶ教室」にて連載☆
 光村図書より発行の雑誌「飛ぶ教室」の43号から、陣崎草子のお笑い童話『ウシクルナ!』の連載がはじまりました。このサイトでは、『ウシクルナ!』の連載がはじまるきっかけとなった「飛ぶ教室40号 童話特集」に掲載されて爆笑をさそった「特大にまちがってるサンタ」のお話を一部掲載いたします。
 クリスマスについてぶつくさ文句をいっているぼくのもとに、いきなりウシがあらわれた!
 小学校4年生の「ぼく」こと四葉四郎くんとおっさんウシをめぐる、強烈なキャラクターたちのトンデモストーリー誕生前夜のお話です。雑誌「飛ぶ教室」も、ぜひ手にとっていただけますとうれしいです。
 
ウシ   ぼく   飛ぶ教室
 
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特 大 に ま ち が っ て る サ ン タ

 十歳にもなって、サンタクロースのじじいなんか信じてるわけない。
 そこは、あたりまえなんだよな。
 そう思いながら、ぼくは大型家電店トヨハシのチラシのオモチャの広告を、にらみまくっていた。
 あのヒゲ面のデブいじじいが、ぼくら子どもにとって魅力的な理由は、ただひとつだ。あのじじいは「プレゼント」を持ってくる。そこが、ナイスなんだ。それにつきる。
 っていうか、あのじじいの「プレゼントを持ってくる」っていう仕事は、ナイスすぎなんだ。ナイスすぎるから、ぼくら子どもは、頭が爆発しそうなほどワクワクしちまうし、大騒ぎする。
「ああっ、ちっきしょー!」
 さけびながら、ぼくはチラシをばんばん裏拳でたたいた。
 今はもう、正月も目の前にせまっている。そしてうちの家には、クリスマスプレゼントなんか、届きゃしなかった──。
 チラシにのっている、電子深海魚戦隊、ダイオウイカライダー変身ベルトの写真をくいいるように見る。番組が大ブレイクして、斬新なコンセプトのオモチャは、大人も欲しがるほどの人気なのだ。ベルトの部分が昆布のモチーフになっていて、まん中のエネルギー放射フィールドの部分はイカの目の形で、まわりに十本のイカ足がうようよしている。キテレツなデザインなのに、いや、だからこそ、すごくイカしてる。
〈このベルトを装着しても、変身はできません〉
 と、ベルトの写真の下に書いてある。
「この注意書きが、またいいんだよな〜」
 くううっと、うなって、ぼくは足をバタバタさせた。
「変身できません」なんて書いてあると、逆に、ほんとうは変身できるんじゃないの? 千個に一個くらい、変身できるホンモノがまざってんじゃないの? という、なぞの期待感が高まるのはなんでだろう。もしもホンモノをゲットできたら、それってすごいことだ。
「でっもなああ!」
 ぼくはもう一回さけんで、どかっとあおむけに寝ころび、チラシをほうりだした。
 サンタクロースは、優しそうなじじいだからステキなんじゃない。それはぜったいだ。モノをくれるから、ステキなんだ。ふだんなら買ってもらえないような、高いオモチャなんかをくれて、ぼくら子どもたちの、この燃えたぎるオモチャ欲を満たしてくれる。そこがすばらしいんだ。
 でも、うちにはサンタは来なかった。
 クラスのみんなは、あの赤白の服を着た、煙突や窓から泥棒なみの不法侵入をやらかすデブいじじいが、枕元にプレゼントを置いていったという話で盛りあがっていた。
 まあ、じじいが本当は誰なのかってことは、だいたいのヤツが知ってるんだけどさあ……。
「はあ〜あ〜」
 深いためいきをついたところで、
 ガンガン!
 いきなり、窓をたたく音がした。
 ぎょっとしてぼくは、閉じられたふすまを見る。
 ここは、木造アパートの一階で、ふすまのむこうの部屋には、猫の額ほどの小さな庭に面した窓がある。その庭によその人が入ってくるなんて、ほとんどありえないことだ。しかも今は夜の七時だ。用があるなら、玄関のチャイムを鳴らすはず。
 ガンガン! と、また音がして、ぼくは飛びあがった。そして次に、ハッと気づいた。
(あ、もしかして、父ちゃんか? 家の鍵を忘れたのかな)
 うちには電話はないし、携帯電話は父ちゃんしか持っていない。だから、ぼくを呼ぼうとして、窓をたたいてるんだな、と思いあたった。
「なーんだ、そういや、玄関のチャイム、すかしっぺみたいな音しか出ないもんな。たまに気づかないんだよな〜、あれ」
 ぼくはいくらかほっとして、となりの部屋に行き、カーテンをシャッと開けた。
 すると、ガラス窓のむこうに、ウシが立っていた。
「ぎ、やああーーっ‼」
 ぼくは絶叫して、尻もちをついた。う、う、う、ウシー⁉
「おっ、なんや、鍵あいとるがな。ほな、じゃまするで」
 がらりと窓を開け、ウシは部屋の中に入ってきた。巨体だ。
「あ、あばばばば……」
 なにか叫ぼうと思っても、声が出ない。ウシは白黒のホルスタイン種ってやつで、うしろの二本足だけで畳の上に立って、じっとこっちを見ている。でかすぎ。
「なにビビってんのや。ワシ、きみが呼ぶから、来たったんやで」
 ウシは幅一メートルはありそうなお腹を、二本爪の黒い蹄でごりごりかいている。そのお腹には、びよびよにのびた、ラクダ色の超でかい腹巻きが巻いてある。
「しっつれいやでぇ。そんな、妖怪か泥棒でも見る目で見られたら、ワシ、プライド傷つくわ」
 なにが起きているのか、わけがわからない。なんでウシがぼくの家に? なんでしゃべってる?しかも、か、関西弁??
「あんた、だれ」
 だれっていうか、ウシじゃん、と思いながらも、ぼくはあわあわする口をなんとか動かして聞いた。
「サンタクローウシやがな。きみ、サンタがこーへんからゆうて、ふてくされとったやろ? だから、来たったんやがな」
「はああ??」
 思わずぼくは立ちあがった。サンタクロー……ウシ??
「は〜、いややなあ。あんなに強く呼んどいて、これやで」
 強く呼んだって、ぼくが? 確かにぼくは、サンタのことは強く頭にイメージしたけど……。
「あ、きみ、ワシが白黒やから、うたごうてるやろ。サンタみたいに赤白ちゃうから。でもそれ、きみのせいやで」
「どういうこと?」
「きみ、サンタにネガティブなイメージを強烈に持ってたやろ。そうすると、なんていうか、めでたい赤白やのうて、こういうネガティブな色っていうことになるわなあ。だから、白黒なんやで」
「はあ……。じゃあなんで、ウシなの?」
 色より、そっちの方がおかしいだろ! サンタなんだから、とりあえず人間の姿をしたじじいを寄こせよ! と、ぼくは思った。まあ、デブいところだけは、合ってるけどさ……。
「そりゃきみ、サンタといっしょに、生クリームのクリスマスケーキのイメージも、持ってたやん? 生クリームって、ウシのお乳からできるやん? だからちゃうか」
「ああ、なるほど……」
 やばい。うっかり、ちょっと納得してしまった。
 クリスマスの日に、父ちゃんがコンビニのショートケーキを買ってくれたのだ。それだけは、クリスマスの日の、まあまあうれしいできごとだったんだ。ホール型の、大きいケーキじゃなかったとはいえ、だ。
「ま、そういう感じのことってあるよねえ。いろんなものがびみょうにつながってるっちゅうか、連想ゲーム? みたいな?」
 ぶつくさ言いながら、ウシは腹巻きについたポケットに前足をつっこみ、ごそごそとさぐっている。
「じゃ、なんで関西弁なの?」つづけてぼくが聞くと、「それは、ワシのシュミやん」と言いながら、ウシはなにかをぼくの肩に、ずしりとのせてきた。
「はい、プレゼント」
 ソレをのせられた瞬間、背中にぞわっと電流が走った。
「な、なんだよこれ‼」
 あわてて手にとって広げてみると、それは昆布だった。
 そして昆布のまんなかには、巨大な目玉みたいな気持ち悪いものもついている。そのまわりには、うねうねと動く、イカの足。全体的に、ねばねばしてる。すごく重い。
「変身ベルトやん」
「ふざけんな‼」
 ぼくはその、ホンモノの昆布でできた変身ベルトを、窓の外にむかって思いっきり投げつけた。
「ホンモノのベルトってのは、そういう意味じゃないっっ!」
 声にかぶさって、ベチャッと、昆布ベルトが外の塀にぶつかる音がした。ぼくはハアハアと激しく息をして肩をいからせた。ウシはそんなぼくを見おろしながら、しかめっ面で前足を組み、耳をぱたぱたさせていた。
(い、いったいなんなんだよ! この、なんかちょっとずつまちがってるせいで、結局特大にまちがっちゃってるサンタクロースは!)
 ぼくは、自分の頭がおかしくなったせいで、幻覚を見ているにちがいないと思い、頭を抱えた。するとウシは、フンッと鼻息を吹いた。
「っていうか、きみさあ、ほんまは、めっちゃええプレゼント、もらってるやん?」
「え?」
 ぼくは、ぎょっとしてウシを見た。どういうこと?
「あれ」
 ウシは、畳の上に投げすてられたブルーの紙を前足でさした。
「お父ちゃんと、遊べる券」
「ぐ……」
 ぼくは、ウシの言葉に、思わずうつむいてくちびるをかんだ。
 こいつ、ウシのくせに、特大にまちがってるサンタクロースのくせに、なんで、なんでそんなこと知ってるんだ──。

 
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つづきは「飛ぶ教室」で


飛ぶ教室40号 「特大にまちがってるサンタ」
(「飛ぶ教室40号」に掲載)
飛ぶ教室43号 ウシクルナ! 連載第1回
「ぼくのビートはスパークする」
(「飛ぶ教室43号」に掲載)
飛ぶ教室44号 ウシクルナ! 連載第2回
「いちごとバズーカ」
(「飛ぶ教室44号」に掲載)
飛ぶ教室 ウシクルナ! 連載第3回
(「飛ぶ教室46号」に掲載予定)


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